2015/01/06

祝祭とガイコツ

 1月も6日になると、お屠蘇気分も抜けきった頃ではないかと思います。遅ればせながら、明けましておめでとうございます。


 お正月といえば、おめでたいものと相場が決まってますが、そこへ一抹の忌まわしさを投げかける1人の僧侶の姿が。時は中世。応仁の乱が勃発しようかという時代。
▼『あっかんべぇ一休』第4巻266頁より(坂口尚作、1996年1月刊)
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 一休さんによると、ガイコツは決して忌まわしいものではなく、めでたいものだと言う。「人間の皮の下は皆ガイコツ」「男女の色気も吹き飛んじまうし 身分の上下の区別もつかん」「醜いところのないこの骸骨 めでたきものじゃ」(268頁)。しかし、めでたいものだと言ったその次の頁では「めでたくもあり めでたくもなし!」「ご用心ご用心」と、正月気分の心にクギを刺しながら、ガイコツをてっぺんに指した棒を振り回して往来を練り歩く。めでたいんだかめでたくないんだか、どっちなんだと言いたくなりますが、人として生まれ人として生きるという営みは、その両者を引き受けることなのでしょうね。つつがなく正月を迎える幸せも、やがて訪れる冥土の旅も、ともに受け入れざるを得ないのが人の宿命であり、一休さんが振り回すガイコツは、その営みの到達点なのでしょう。


 さて、何故このような前振りをしたかというと、“めでたい日にガイコツ”というイラスト(一コマ漫画)を、メキシコの新聞『La Jornada』のツイッター(→こちら)で見かけたからです。昨年末のクリスマス、日本ではケーキやプレゼントでお祝い気分の人もいれば、そのようなお祝い気分を粉砕せんとする人もいたと思われますが、そのどちらの気分をも凌駕するインパクトを感じたのが、以下のイラストでした。


 …「Postal navideña」は「クリスマスの絵葉書」、タグの中の「Moneros」とは、メキシコでは「漫画家」を指すみたいです。後者の単語は辞書には載ってなかったのですが「Linguee」という中国の英文中訳サイトに文例が載っていて(→こちら)、その出典となるページがweb.archiveに残っていたので(→こちら)、斯様に判断しました。中国語の解説によると「在墨西哥,漫画家被称作“moneros”,因为他们画的是“monitos”(字面意思是“滑稽的人物”)。(拙訳:メキシコでは漫画家は“moneros”と呼ばれる。何故なら彼らの描くのは“monitos”(字面の意味は“滑稽な人物”)だから。」だそうです。「monitos」も辞書に載ってなかったのですが、「mono(猿、まねをする人、おどけもの、ふざける人、等)」という単語の縮小辞(の複数形)なんでしょうか。


 そして「Antonio Helguera(@aHelguera)」さんという方がこのイラスト作者で、ご自身のコメント付きで、同じ画像を載せていました。


 …(拙訳:「親愛なる諸姉諸兄。あなた方にとって幸せなクリスマスでありますように。この愛情深いクリスマスカードを添えて。」)


 メキシコでガイコツといえば「死者の日(Día de Muertos)」。日本におけるお盆に近いそうです。以下の2つのページが詳しいです。


 マリーゴールドの鮮やかな黄色や、ガイコツの砂糖菓子のカラフルな色彩を見ていると、「死」の恐ろしさから遠く離れた陽気さを感じてしまいますが、今年の『La Jornada』紙のアカウントによる「死者の日」の紹介文には恐怖をかきたてられました。


 …今年の「死者の日」に関する写真ギャラリー紹介のツィート。「(拙訳)私を殺してください、何故なら私は死にそうだから」という不吉な文言のリンク先の記事(→こちら)には、以下のような文章がありました。「(拙訳)2014年10月31日。数年からこっち、――当然のように――メキシコでは毎日が死者の日だと言われる。組織犯罪がらみの暴力事件が、この国に死体をばらまく。だから『死者の日』の伝統の記念祭は、そのお祭り気分を失うことなく、悲劇的かつ悲惨な様相を見せる。仮装、仮面は、歓待、招魂であるが、ここ数年の不幸の通知でもある。」


 近年のメキシコにおける陰惨な殺人事件は日本にも伝わってきます。あまり伝わって来ない事件もあります。「メキシコでは毎日が死者の日」という言葉が心に刺さりました。どうか、彼の地に平穏が訪れますように、そして、平穏の中で故人の魂との交歓が為されることを願わずにはいられません。