昨年2度に分けて記事をupした(→こちらと→こちら)、ヨーロッパの有名な漫画シリーズ「Corto Maltese」の話題の続き。作者名「Hugo Pratt」はイタリア人だからカナ表記は「ウーゴ・プラット」が良いのでしょうけど、シリーズ名であり主人公の名前である「Corto Maltese」のカナ表記をどうしようか、相変わらず悩んでいます。以前にも書いたように、イタリア人の描いた漫画のキャラクターだし、物語の中で主人公が生まれた頃のマルタ島の公用語はイタリア語だったそうだから、ここは「コルト・マルテーゼ」の表記で統一すれば良いのですが、生前、作者は、インタビューに伊語で答える時は「コルト・マルテーゼ」と言い(→こちらとか→こちらとか)、仏語で答える時は「コルト・マルテーズ」と言っていた(→こちらとか→こちらとか)ので、私もそれにならいたくなりました。なので、話題の出所の言語に合わせて、カナ表記を変えます。今回はフランス語。
昨年、2014年10月7日に、フランスのウーゴ・プラットファンサイト「LES ARCHIVES HUGO PRATT」のブログに「Le retour de Corto Maltese sans Hugo Pratt(ウーゴ・プラット不在のコルト・マルテーズの帰還)」という記事が載っていました(→こちら)。
仏新聞『ル・フィガロ』電子版の2014年10月6日付記事「Le retour de Corto Maltese fait le bonheur des premiers fans(コルト・マルテーズの帰還は、初期のファンを幸福にするだろう)」という記事(→こちら)が出典で、ウーゴ・プラット没後20年の2015年に続編が刊行されるという話です。同様のアナウンスが、フランクフルト・ブックフェアにて、Casterman社(キャステルマン社、仏語版の版元)のトップであるCharlotte Gallimard(シャルロット・ガリマール)氏によってなされたとの事(→こちら)。
その新作は、シナリオが Juan Diaz Canales(フアン・ディアス・カナレス)氏、作画がRubén Pellejero(ルベン・ペジェヘーロ)氏の、スペイン人作家のコンビが担当するのだそうです。刊行は2015年10月。上述フランクフルト・ブックフェアの記事によると、キャステルマン社からは仏語版と蘭語版、同時にRizzoli-Lizard(リッツォーリ-リザード)社から伊語版、Norma(ノルマ)社から西語版が刊行されるそうです。当ブログ2014年11月20日付け記事(→こちら)の最後に思わせぶりな事を書いたのは、この件が頭の隅にあったからです。ちょうど今、フランスで「アングレーム国際漫画フェスティバル」が開催中ですが、「アングレーム国際漫画フェスティバル 日本語ブログ【公認】」の1月29日付記事によると(→こちら)、両氏のトークショーが予定されているとの事ですから、この件に関して新しい話が聞けるかも知れません。
フアン・ディアス・カナレス氏は、日本では「ブラックサッド」シリーズのシナリオでお馴染みだと思います。カナレス氏のイラストブログ「Todos reyes, todos poetas(全ての王、全ての詩人)」には、過去の絵にコンラッドの小説『闇の奥』を漫画化したサンプルがあり(→こちら)、コンラッドといえば、プラットが大いに影響を受けた作家だそうですから、カナレス氏もこうして漫画化に取り組んだのでしょう。
ルベン・ペジェヘーロ氏は1952年生まれのベテラン漫画家。フランスでは1997年に、Jorge Zentner(ホルヘ・セントネール)氏がシナリオ担当の『Le Silence de Malka(マルカの沈黙)』でアルバム賞を受賞しています。上述のウーゴ・プラットファンサイトに上がっている画像を見ると、「コルト・マルテーズ」の『Tango(タンゴ)』のワンシーンに類似したコマも描いているようです。シナリオ・作画共に熱心なプラットのファンだと思われますので、どんな風に描かれるか、拝見する日が楽しみです。
ただ、昔ながらの熱心な「コルト・マルテーズ」ファンの中には、他の作家に描かれるのを嫌がる人もいる事でしょう。それでも、このような新作はオリジナルの宣伝にもなりますし、描き継がれる事によってキャラクターはこの世界を生き延びていくのだと思います。
上述のフィガロ電子版には4人の有識者によるコメントが載っているのですが、その内、日本でも有名なバンドデシネ作家、エンキ・ビラル氏のコメントの文字で書かれた部分を訳してみました(動画の方はさっぱり聞き取れなかったのですが、文字版と大きな違いはあったのでしょうか…?)。
エンキ・ビラル「とんでもない挑戦」 「私はまず第一に好奇心を覚えた。精神に悪い病的な意味での好奇心ではなく、むしろポジティブなものだ。私はこのプロジェクトに対して、かなり好意的な感情を抱いている。しかし、私は作品を目にするのを待つ。私にとってコルト・マルテーズは、何よりもウーゴ・プラットだ。それは実に自由なトーンで描かれている。作者の自由でもある。ウーゴ・プラットはこの世の快楽主義者のようなところがあった。彼の死の20年後、彼が崇拝対象とするキャラクターが復活する事は、私の気を悪くするものではない。異なった物語進行は、権利を持つ者が許可を与えた以上、尊重されるものだ。それでもやはり、はっきり言って、それはとんでもない挑戦だ。新しい執筆者達には、その能力が無ければならない。それは単なるコピーであってはならない。それは、ほぼ、わずかにずらしたものになるべきなのではないか。この翻案がひとつのオマージュなるために。
ところで、本国の「コルト・マルテーズ」公式サイトの「NEWS」欄によると(→こちら)、大型本英語版全12巻が順次刊行されるそうですよ。既に第2巻『Corto Maltese: Under the Sign of Capricorn』が出てる模様(→米amazon)第1巻はカラー版の小型本でしたが(→米amazon)、いつか出し直す日がくるのでしょうか。