去る3月19日に東京アニメアワードフェスティバル2016で上映された長編アニメーション映画『Tout En Haut Du Monde』(監督:Rémi Chayéレミ・シャイエ、フランス・デンマーク合作、2015年、英題:Long Way North)について。
▼Tout en haut du monde - Bande-annonce ▼Tout En Haut Du Monde - Site officiel(仏語公式サイト)
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《あらすじ(公式サイトより)》
1882, Saint-Pétersbourg. Sacha, jeune fille de l’aristocratie russe, a toujours été fascinée par la vie d’aventure de son grand-père, Oloukine. Explorateur renommé, concepteur d’un magnifique navire, le Davaï, il n’est jamais revenu de sa dernière expédition à la conquête du Pôle Nord. Sacha décide de partir vers le Grand Nord, sur la piste de son grand-père pour retrouver le fameux navire.(拙訳) 1882年、サンクトペテルブルク。ロシア貴族の娘サーシャは、祖父オルキヌの冒険生活にずっと憧れていた。有名な探検家であり、壮大な艦船ダヴァイ号の発案者でもある祖父は、北極を征服する最後の探検から戻ってくることは無かった。サーシャは祖父の航路をたどって北極へと出発する決心をする。問題の艦船を発見する為に。
《感想等(ネタばれ有り)》 (ところどころ記憶がおぼろげなので、仏映画公式サイトや配給サイトを見ながら補完しています。エピソードや固有名詞に間違いがあったらすみません。) 2年前に北極を目指して出向したきり帰ってこない祖父。捜索船は出たが、それもまた行方知れず。祖父の名誉は地に墜ち、その名を冠した科学資料を集めた図書館は開館されない。父は大使の職を求めて娘を良家に嫁がせたい。社交界デビューの直前、娘は祖父の部屋から航路のメモを見つけ、それが捜索船がたどったものとは異なる事に気付く。再び捜索船を出して欲しいと娘は舞踏会の場で王子に懇願するが受け入れられない。王子の不興を買い、父からの叱責を受けた娘は、自ら祖父の居場所を突き止めようと決意する。――サーシャが目指すものは、は祖父との再会、遭難した艦船ダヴァイ号の発見、そして何よりも真実を突き止める為の旅だったと思います。その行程は苛酷なものであり、様々な困難が待ち受けています。北方行きの商船ノルジュ号に乗せて貰おうと船長の弟に話しを持ち掛けるが手違いで乗れずひと月待たされ、その間港の宿屋に泊めてもらうも調理や給仕といった未経験の仕事をしつつ貴族とは異なる暮らしを送り、ようやく船に乗り込んだ後に待ち受ける多くの試練。船乗りの経験も無く、しかも女性であるサーシャには大変な日々だっただろうと思うのですが、船員としての仕事を覚え、他の船員を助け、仲間の信頼を得ていく過程には、彼女の賢さと勇敢さが良く表れていて、感嘆させられました。 原題『Tout En Haut Du Monde』を映画祭通訳の方は「世界の天辺」と訳していましたが、たどり着いたかに思えたそこは何も無い氷の世界であり、絶望の世界に感じられました。零下と飢えの極限状況の中で船員達との争いが起き、仲の良かった者からもののしられ、それでもくじけないサーシャの強さに感動とあこがれを覚えました。その強さと聡明さゆえ、サーシャは仲間の信頼を回復し、北極点に到達します(サーシャの方位磁石が回転していたので、そう判断しました)。最後、祖父が立てた小さな旗が風に飛んでいくのですが、本当に大事なのは未開の地を征服する野心や名誉ではなく、真実を目指し探求する過程にこそ意味があるのだというメッセージであると受け止めました。全体として、美しく感動的な物語だと思ったのですが、ネガティブな感想も少しだけありました。下の方にこっそり記しておきます。 今回の映画祭の上映では、ゲストに絵コンテ・作画監督のハン・リヤン・ショー(Liane-Cho Han)氏を始めとするスタッフと、プロデューサーのロン・ディアンス(Ron Dyens)氏が来日されました。その時語られたコメントや質疑応答を、当時の内容を正確に再現出来てはいないのですが、私にとって印象が強かった部分を書き留めておきたく、メモを元に記します。 (ハン氏より)レミ・シャイエ監督は、西洋に良くありがちな作品と異なるものを狙った。展開の早いストーリー・くだらないジョークと正反対の知性で取り組んだ。詩情性のある作品を小さい子供でも理解する事を証明したかった。これはリスキーな賭けで、プロデューサーのロンさんだけがセンスの確かさで、この作品の可能性を信じてくれてた。そして、5歳の子供でも見て楽しんでくれた。常に同じ様なものでなくても子供は喜ぶことを証明してくれた。 (Q1:最初に発表されたティーザーよりもサーシャのデザインが幼くなっているが、変更の意図は?) ―当初はサーシャの唇が描かれている。しかし、制作の予算から出来る限り単純化して、モチーフを減らした。パイロットはフルアニメ・2コマ撮りで撮っているが、作監として入った時点から、とにかく情報量を減らすしかなかった。パイロットも本編もフラッシュで作っているが、作業を減らすために「シンボル」という機能を使った。アニメートも基本は3コマ撮りで、日本のアニメの制作の流れを参考にした。派手に動きまくるアニメーションではなく、感情に重点を置いた。 (Q2:作画の参考に3Dモデルを使っているか?) ―3Dモデルは乗り物(船・馬車・そり)だけ。人物には使っていない。 (Q3:色使いが深かった。色彩のコンセプトはどうやって決めたのか?) ―色は、美術監督で画家でもあるパトリス(Patrice Suau)の貢献が大きい。シーン毎の小さなスケッチで色のシステムを作り、プログラムで色のバランスがとれるようにし、本編の画像に配色出来るようにした。(←この辺りは理解が追いつかず、上手くメモがとれていません…)パトリスも監督も、20世紀初頭の電車内の広告(ここでカッサンドルの名前が挙がったような覚えがあるのですが、メモしておらず…)、印象派、ナビという美術の流れ(ナビ派を指していると思います。→参考:ここやここやここ等)に影響を受けている。 (Q4:サーシャの前髪が垂れる意図は?) ―キャラクター毎にシンメトリーがある。どのキャラクターかの判断をしやすくする為。これを壊す為に、髪の毛を一本だけ動かしている。 ……、と、ここまで書いて、「アニメ!アニメ」にイベント・レポートが載っている事に気が付きました(→こちら)。最後の質問のシンメトリーに関しては「キャラデザは反転できるように左右対称としている。」との事です。また、映画祭コンペ審査員の方々のコメント等も載っていて、専門家ならではの見所に示唆を受けました。
この記事の上の方に関連リンクを大量に載せていますが、現状日本語情報が少ないので参考になるかと思います。特に、フランスの映画公式サイトは概して長期間は置かれないので、一覧をお勧めします。「Carnet de voyage(旅の手帖)」はpdfファイルがダウンロード出来ますので(→こちら)探検の持ち物や航路をチェックしたり、ロープの結び方を練習するのも、将来何かの役に立つかもしれません。
《…ネガティブな感想(以下、白文字で書きます。読む際にはドラッグなどしてみて下さい)》 全部で3点あります。 ・サーシャの友人の描写…冒頭でサーシャと一緒に祖父の名前を冠した(まだ開館していない)図書館に潜り込んだ、友達のナージャ(Nadya)という少女。地味なキャラデザインの上、言動がいかにも旧態依然な女子っぽくて、サーシャの引き立て役に見えました。物語の都合で配置された人物像に見えたのです。でも、ラストで帰港したサーシャを出迎えた姿は初登場の時よりも成長してるように見えましたし、友達思いの気立ての良さが感じられて、そこは好感が持てました。 ・サーシャが丈夫すぎる点…全く船酔いしないし、大の大人がヘトヘトなのに平然としていられるのは、単に根性があるというだけではない不自然さを感じました。氷河で船が大揺れする場面では、見ている私の方が酔いました。また、技術的に難しいのかも知れませんが、サーシャ(を始めとする船員達)の服装が綺麗なままというのは、致し方ないと割り切るしかないのでしょうか。更に、凍傷や雪目の心配はしなくて良いのかとも思ったのですが、比較対象が幼少の頃に読んだマンガ『ジャングル大帝』のムーン山探検というのは反則でしょうか。TVアニメを通して見た事が無いのですが、その部分は原作通りには展開していないのですよね? ・サーシャとカッツ少年(Katch)の不用意な身体の接触…二ヶ所ありましたよね。航海したての時と、北極でサーシャが遭難したのを救助する時と。実際にそういう事態になった時にあり得る話と受け入れるべきなのかも知れませんが、好きでも無い男性とそういう接触をする場面を見るのは(そういう場面を観客として受け入れざるを得ないというのは)、あまり良い気がしませんでした。男性の観客が見ると、違う感想になるのでしょうか。以上です。
(最終更新日:2016年4月14日)
(当ブログ関連記事) ●『Long Way North(Tout En Haut Du Monde』英語版公式サイトとtwitterアカウント(2016/08/19)