2015/12/12

伤痕(傷跡)-(1)

●伤痕(傷跡、Shanghen)
作者:李昆武(リー・クン・ウー、Li Kunwu)
発行:三联书店(三聯書店)
2012年11月刊


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 邦訳『チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語(仏語題:Une vie chinoise、中国語題:从小李到老李:一个中国人的一生)』が出ている中国の漫画家、李昆武氏による、抗日戦争を扱った漫画。フランスでは『Cicatrices』という題名で翻訳が出ています。これから数回に分けて内容の紹介や考察、感想等を書いていこうと思います。まずは、書籍の外観に書かれている文章の日本語訳から。


《表表紙の帯文》

记忆是有力量的。有些记忆最终变成智慧,可使我们免于愚蠢和偏见,凶残和懦弱,可使我们免于施暴,也可免于受难。这是很多人矢志不忘战争的理由, 也是另一些千方百计想要抹去记忆的原因。
——《新民周刊》抗战特刊/

(拙訳)
記憶は力を持つものだ。幾つかの記憶は最後には知恵に変わり、我々を愚鈍や偏見、凶暴さと残酷さ、そして意気地の無さから逃れさせてくれるし、我々が暴力を振るう事から逃れさせてくれるし、災難を受ける事からも逃れさせてくれる。これが、とても多くの人々が戦争を忘れまいと心に誓う理由であり、他方であらゆる方法を講じて記憶を抹消したがる原因である。
——『新民週刊』抗日戦争特集号


《裏表紙の帯文》

在昆明文物市场上,作者意外发现了一张日本人绘于1894年的彩图,描绘了中日申午的场景。作者因此与文物店老板老七结缘,得以亲眼目睹老七的师傅珍藏的一大批战争资料,包括日军随军记者在侵华时期制作的照片集、纪念册、画报、地图等。在翻译、整理这批史料的过程中,作者和亲人记忆深处伤痕也意外地被揭开。于是作者拿起画笔,用漫画和照片交织融合的奇特方式,讲述这段不能忘却的历史……

(拙訳)
昆明の古物市場で、作者は思いがけず、日本人が1894年を描いた彩色画を見つけた。それは日清戦争の場面を描いたものだった。作者はそこで古物商の主人である七氏と知り合いになり、七氏の親方が秘蔵していた大量の戦争資料を目の当たりにする。そこには、日本軍の従軍記者が中国侵略の時期に製作した写真集や記念アルバム、写真誌、地図等を含んでいた。それらの資料を翻訳し整理する過程で、作者と親族の記憶の深い所にある傷跡が思いかけず開かれる。それで作者は絵筆を手に取り、漫画と写真が織りなす奇特な方式を用いて、この忘却不能な歴史を述べる…。


《裏表紙に書かれている文章》

在我的眼前沸腾着一片火海,我从没有见过样大的火,火烧毁了一切:生命,心血,财富和希望。但这和我并不是漠不相关的。燃烧着的土地是我居住地方;受难的人们是我的同胞,我的弟兄;被摧毁的是我的希望,我的理想。这一个民族的理想正受着熬煎。我望着漫天的红光,我觉得有一把刀割着我的心。
——巴金《火》

(拙訳)
私の目の前には一面火の海が燃えたぎり、私は今までこのような大火を見た事が無かった。火は一切を焼き尽くした。生命、心血、財産、そして希望を。しかし、この事と私とは決して無関係では無い。燃えた土地は私が住んでいる場所だ。災難を受けた人々は私の同胞であり、私の兄弟だ。打ち砕かれたのは私の希望であり、私の理想だ。この一つの民族の理想は正に艱難辛苦を受けている。私は空を覆う紅い炎を見渡している。私は一振りの刀が私の心を斬るのを感じる。
——巴金「火」

我因为这个时代的洪流,冲进了人们心房中的痛苦,让我感觉到人生的悲哀,又让我兴奋到这个时代的伟大,一切的一切,使我不能忽视这个时代的造就,更不能抛弃时代给与大众的创伤。
——蒋兆和

(拙訳)
私はこの時代の奔流故に、人々の心の苦しみが押し流され、私に人生の悲哀を感じさせ、また、この時代の偉大さに精神を高揚させ、ありとあらゆるものが、私にこの時代の造詣をないがしろには出来無くさせ、更に、時代が与える大衆の傷を放っておく事を出来なくさせる。
——蒋兆和

在并不遥远的过去,那种破坏性的盲信,曾践踏了国内和周边国家的人民的理智。而我,则是拥有这种历史的国家的一位国民。作为生活于现代这种的时的人,作为被这样的历史打上痛苦烙印的回忆着,我无法和川端一同喊出“美丽的日本的我”。
——大江健三郎

(拙訳)
決して遠くは無い過去、あのような破壊的な盲信が、かつて国内と周辺の国家の人民の理性を踏みにじった。しかし私は、このような歴史的、国家的なものを抱える一人の国民である。現在においてこのような時代の者が生きるが故に、このような歴史に追憶の苦痛の烙印を押されたが故に、私は川端らと共に「美しい私の日本」と叫びようが無い。



(2016年3月18日追記)
 すみません。この記事をUPしてから早3ヶ月。中国語の辞書を引くのが大変なのと、内容が重いのとで、続きが書けませんでした。もうしばらく時間を下さい。その間、別な記事をUPしていきます。

 これまでに調べた、この作品に関連したページは以下の通り。ご参考になさって下さい。
 ●「中国漫画家、日本側の写真資料で戦争の「傷跡」描く」(人民網日本語版より)
  (なお、李昆武氏の作品に関する人民網日本語版記事は
   「中国人漫画家、文化庁メディア芸術祭優秀作品賞を受賞 中国人初の快挙」も。)
 ●李昆武氏のサイト


(最終更新日:2016年3月18日追記)