2015/01/26

「私はシャルリーだ」と言いづらくて(その4・完)

 私が『シャルリー・エブド』紙襲撃事件が日本に与える悪影響として恐れていたのは、以下の三点。一点目は、フランスやEUは近年、日本に対して死刑制度の廃止を促していますが、こういった助言に対して今以上に聞く耳を持たなくなる事。二点目は、日本で起きている差別表現(女性差別や民族差別等)への抗議活動に対して、聞く耳を持たないどころかテロ扱いされたり、抗議された側がさも被害者であるかの如き喧伝をしやしないかという事。三点目は、日本でも昨今イスラム教徒が大勢住んでいると思うのですが、イスラモフォビアが生じなければ良いがという懸念。今の所、日本では『シャルリー・エブド』紙のムハンマド風刺イラストは評判が悪そうだし、フランスもイスラム教徒もあまり身近な存在では無いから、大きな影響は無さそうな気がする…と思っていたところ、ここ数日のISISによる日本人人質事件が急展開を迎えているので、この先どうなるか、正直、不安な気持ちが高まっています。


 襲撃事件後、『シャルリー・エブド』紙編集スタッフは『リベラシオン』紙のオフィスに間借りして次の号を制作しましたが、表紙がやっぱりムハンマドのイラストで、イスラム教徒でもないのに何故そこまで自分達と一体化させるのかと、憤りと呆れを感じたものでした。この表紙の中の文章の訳については、詳しい解説がネットに上げられました(→こちら)。しかし、「許す」にせよ「赦す」にせよ、その主体は本来、殺された被害者達ではないのでしょうか。釈然としない気持ちが残りました。
charlie_hebdo_pardonne


 今回の襲撃犯のようなテロリストと他のイスラム教徒とは峻別すべきだという事は誰もが思っている事だと思います。実際、編集スタッフが事件前の最後のツィッターに載せた画像は「イスラム国」の指導者アブー・バクル・アル=バグダーディーで、今回の襲撃を予言するようなセリフを言わせていました。
▼(拙訳:絵の中…アル=バグダーディーの願いもまた/そして、くれぐれも健康で!、絵の外…一番の願いだ、時として)


 報道によると、過去に火炎瓶による襲撃事件が起きたり、最近も脅迫を受けて護衛の警官がついていたとの事ですから、そういう勢力との、ある種の戦いを繰り広げていたと言えるかもしれません。とはいえ、最新号のようにムハンマドのイラストを用いる事で、テロを起こす気など全くない人々に対しても挑発しているかのような受け止められ方がされ、実際、多くの国々のイスラム教徒が抗議活動を起こしています。だけど、フランスの風刺の歴史や政教分離や同化主義等を解説している文章を読むと、ムハンマドの描かれ方は、フランスにとっては余りおかしな事ではないのかなという風に感じられます。すると、この『シャルリー・エブド』紙は「フランス」と同調しているんじゃないでしょうか。左翼系の風刺雑誌と自認し、政治家批判も沢山載っているみたいですが、それも「フランス」の一部なのでしょう。だからこその「JE SUIS CHARLIE」の大合唱で、フランス及び近隣諸国の首脳を交えた大行進なんだと思います。国家主導という点に抵抗感を覚えますし、しかも非フランス人の私は、その動きには加わりにくいです。『シャルリー・エブド』紙の現物をちゃんと読んだ事がない者の憶測ゆえ、見当はずれな事を書いているかもしれませんが。


 逆に、政府にとって不都合なのが、非「フランス」的な表現なのでしょうか。今回の同時テロ事件後「テロ擁護発言」をした人が逮捕されているとの報道(→こちら等)を目にして、私は「フランスにも表現の不自由があるなぁ」と思いつつ、現在開催されている「表現の不自由展」(→こちら)に行き、物販コーナーで買った冊子の一つ『インパクション』誌197号(最終号)をパラパラめくっていたら、94頁に、現在フランス在住の鵜飼哲氏による「パレスチナ連帯デモが禁止される国から フランス『共和国の原住民党』の闘い」というタイトルの論文が掲載されていて、全ては連綿と繋がっているのだなと思いました。こうも色々と繋がっていては私の理解が追いつかないので、この一連のエントリはいったん区切りたいと思います。また考えがまとまったら、このブログに書きたいと思います。


 ところで、事件後、ツィッターで「JE SUIS CHARLIE」のハッシュタグが多く用いられるようになった頃、イスラモフォビアに対抗するタグも発生してるとの報道がフランスでありました(→こちら)。「I'll ride withyou」「voyage avec moi」「Je Suis Ahmed」など。最後のは、テロリストに殺された警察官の名前に由来したとの事でした。これって結構良い話だと思ったのですが、他ではあまり報道されてないようで、残念に思いました。


 最後に、ちょっと気になる事を一つ。前段落の件をネットで報道した『レクスプレス』誌と、『シャルリー・エブド』最新号を制作するのに間借りした『リベラシオン』紙が、イスラエルのテレビ局「i24News」と共に併合されて「Mag&NewsCo」という名のメディアグループが誕生するという話。(フランス語の報道は→こちら、日本語の報道は→こちら)。これって一種の「クロスオーナーシップ」にあたるのでしょうか。それとも、国外のTV局なら特に問題にする事ではないのでしょうか。フランス(語圏)のメディアのグループ化については、なだいなだ氏が『ちくま』誌の連載で書いていた記憶があるのですが(残念ながら現物は手元に無し)、この併合が将来、報道にどんな影響を及ぼすのかが気になりました。以上。


追記)今回のテロ事件を受けて、識者による解説が幾つか上がっているので、ここに列挙します。(まだ未消化なのですが、今後の参考のためのリンクメモ。)